ヨブス氏、エリクソン氏、クソフスキイ氏の3人は、2009年10月30日〜11月3日に開催された「デザインタイドトーキョー2009」に合わせて東京を訪れました。ヨブス氏は、アスクルとの関係が始まったいきさつをこう語ります。
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ニーナ・ヨブス氏
写真提供 ニーナ・ヨブス氏
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「5年ほど前に、スヴェンスク・フォルム(スウェーデンクラフト・アンド・デザイン協会)代表のエヴァ・クムリン氏が紹介してくれたのがきっかけです。当時アスクルはオリジナル商品を開発するために欧州のデザイナーを探していました。初めは数カ国から多数のデザイナーが起用されていましたが、現在は数が減って私たちスウェーデン人だけになりました」
ヨブス氏は、日本のクライアントとの仕事は、欧州とは少し勝手が違うと言います。
「純粋に過去の作品を見るだけで仕事を依頼してくれることはまずありません。日本のクライアントは、相手を知って信頼関係を築くというプロセスを必要とするのです。そのため、最初の依頼を得るまでに何度も直接会うことになります。関係の構築に少々投資が要るのです」
それでも、両者の間に深い結びつきが生まれたのは確かなようです。ヨブス氏のデザインを施した商品は、今やアスクルのオリジナル商品の中でも高い人気を誇っています。たとえば、小鳥のモチーフを地紋に取り入れたオフィス用付箋や、小紋柄のボックスのティッシュペーパーなど、そのいくつかを実際に使ったことがある人も多いはずです。
「日本でデザインをするときに絶対に忘れてはならないのが、カワイイという要素です。もちろん、私なりの表現ですので、日本人にとってのカワイイとは少し異なるかもしれませんけれどね」
日本ではスウェーデンのデザイナーがとりわけ成功しているように見えます。その理由について、ヨブス氏は持論を語ります。
「日本人はトレンドに敏感です。スウェーデンのデザイナーはトレンドリーダーであることが多く、そのことを日本人はよく知っているのです。また、スウェーデン人のビジネス倫理が日本人と近いことも理由のひとつです。スウェーデン人は締め切りを守るし、約束した通りのものを納品します。そのことを日本人はわかっているのです」
共通点がある一方で、大きな違いもあります。それは、商品開発におけるデザイナーの役割だといいます。
「日本ではデザイナーは商品開発チームの正式な一員ではなく、基本的にサプライチェーンの中の一つであることが多いようです。スウェーデンではデザイナーも商品開発に大きく関わりますし、スウェーデン企業には日本企業にあるようなヒエラルキーがありません」
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ストックホルム・デザインラボ(SDL)のトーマス・エリクソン氏、ビョーン・クソフスキイ氏
写真提供 ストックホルム・デザインラボ(SDL) |
ヨブス氏と同様にアスクルと深く関わっているのは、有名デザイナーのビョーン・クソフスキイ氏とトーマス・エリクソン氏が設立したストックホルム・デザインラボ(SDL)です。エリクソン氏がアスクルとの関わりを説明します。
「最初の仕事は乾電池のリデザインでした。私たちはアスクルがデザインの方向性を決めるお手伝いをしました。それから私たちの仕事は、ノート、のり、OA用ウェットティッシュのパッケージ、その他多くの基礎的オフィス用品へと広がっていきました。拡大の余地はまだまだあります。アスクルのカタログには3万点を超える商品があり、私たちが手がけたのはそのほんの一部ですから」
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ストックホルム・デザインラボ(SDL)デザインの液状糊のパッケージ
写真提供 ストックホルム・デザインラボ(SDL)
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SDLが手がけたアスクルのオリジナルの乾電池は大好評を博し、アスクルはサイズによるデザインや価格の異なる商品を発売して、売り上げを伸ばしました。
「私たちは、シンプルでありながら退屈ではないデザインを施すことで、日用品に少しだけ息吹を加えられたらと思っています。そのために試みているのは、それがどんな商品かを説明するシンプルなシンボルを使うこと。そのシンボルは控えめなデザインで、すべてがあるべき場所に配置されていなければなりません。現代社会には情報が溢れすぎています。ですから私たちは騒々しさを少し切り捨てようとしているのです。切り捨てることで付け足す。視覚的寡黙さ、と呼んでもいいかもしれません」(エリクソン氏)
SDLがデザインしたアスクルの液状のりや乾電池などアスクルのオリジナル商品は、2008年の「Design S/Swedish Design Award」で、スウェディッシュデザインアワードを受賞しています。あなたたちがデザインしたアスクル商品はスウェーデンでも十分売れるのではないですかと尋ねると、クソフスキイ氏からは意外な答えが返ってきました。
「実のところ、シンプルすぎるデザインはスウェーデン人には受け入れられにくいように思います。ここまでシンプルなものを商品化するということは、ビジネスをする上で案外日本人の方が勇気があるのかもしれません」
シンプルさを極めることで、どのような日本のオフィスにもマッチする。それがアスクルとのコラボレーションの成功の鍵のようです。
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