ガルピッタンは、自動車部品製造・販売メーカーであるHaldex ABの子会社です。1906年の創業から100年以上の歴史を持ち、弁ばね用ワイヤーでは世界トップシェアを誇ります。スウェーデンのガルピッタンに本社を置き、米国・サウスベンド、中国・蘇州で業務を展開。高い技術力とノウハウを備え、圧倒的な存在感で業界を牽引してきました。一方、鈴木金属工業は1938年に創業され、70年以上の歴史を持つ日本屈指のワイヤー総合メーカーです。創業以来、ピアノ弦やステンレス鋼線などの特殊鋼線を、多岐にわたる業界に提供してきました。弁ばね用ワイヤーにおける同社のシェアは、日本No.1。世界ではガルピッタン社に次いで業界第2位です。
「1985年のプラザ合意以降、日本の自動車業界は次々に海外生産へシフトし、現在は日系自動車産業の半分以上の自動車が海外生産拠点で生産されています。我々は日本で確固たる販売基盤を持ち、長年にわたって事業運営を続けてきました。しかし多極化が進むにつれ、グローバルな製品供給体制の確立は、生き残りに不可欠な要素となってきました。方法を模索する中で、ガルピッタン社が売りに出されたのです」
そう語るのは、鈴木金属工業の代表取締役を務める杉浦登氏です。ガルピッタンの買収が検討され始めたのは、2008年9月のこと。視察や監査を経て検討を進めた結果、同年12月には株式売買契約を締結、2009年6月にガルピッタンはスズキ・ガルピッタンABへと社名を変えました。買収の狙いを、氏はこう語ります。
「ヨーロッパで圧倒的なシェアを誇り、アメリカ、中国にも拠点を持つガルピッタンと、日本に強い我が社。我々が1つになれば、自動車業界における世界の代表的な拠点を、すべてカバーできることになります」
買収後のグループ全体のシェアは、世界の弁ばね用ワイヤー市場の4割以上。グローバルに広がる事業拠点を活かし、世界最適生産体制を確立することが現在の大きな課題です。
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鈴木金属工業株式会社
杉浦登社長
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買収の決断を後押しした最も大きな要因は、ガルピッタンの企業文化だったと杉浦氏は言います。弁ばね用ワイヤーは、自動車エンジンの生命線とも言える弁ばねに用いられる特殊鋼材です。弁ばねはエンジンバルブの開閉に伴って、毎分数千万回にも及ぶ速さで伸縮を繰り返します。万一弁ばねが破損すると、エンジンの機能がストップするだけでなく、走行中の大事故につながる危険性もあるのです。「弁ばねは、人の生命を担う製品。企業としてどういった理念を持っているのか、企業文化は最も重視した点でした」と杉浦氏。視察を重ねる中で氏の目に映ったのは、ガルピッタン社で働く人たちの、製造業に対する真摯でまじめな姿勢でした。
「時間に厳しく、オープンで誠実。そういった姿勢にふれ、深い安心感を持ちました。ものの考え方や習慣などが、日本人に似ているところにも共感しましたね」
こういった感想は、視察に同行したほかのメンバーも同じだったといいます。
今後の展望は、短期的ビジョンと中長期的ビジョンとに区別して定義されています。
「短期的には、シナジー効果を高めることを掲げています。技術・開発ノウハウを交換し、互いの弱点を補完し合いながら長所を補強することが急務です。厳しい経済環境において、いかにして他社に対し優位性を保ちながら収益を上げていくか。その基礎固めとして、今後1年半をかけて統合効果を出すプログラムを立てています」
杉浦氏が語る抱負は、そのまま現場の士気として全社に浸透しているようです。そのための技術交流は、既に活発に行われています。
一方、中長期的な目標として掲げるのは、従来のコンバッション・エンジンの高品質化です。
「ハイブリッド車の台頭も合わせ、自動車のエンジンは今後、さらに高出力、低燃費化が進み、小型化、軽量化していくでしょう。その流れに資するべく、高品質化、高機能化、そして環境対応を進めていきます」
これらを達成するために同社が目指すのが、鋼材の高張力化です。鋼材自体の張力を高めればワイヤーを細くすることができ、その分エンジン自体を小型化し、軽量化することが可能になるのです。現在、話題に上ることも多い電気自動車ですが、その普及がどれほどの速度で広まるかは、ガソリン車が、性能、機能、価格などの要求水準をどこまで満たせるかにかかってきます。
「電気自動車の台頭を抑え、ガソリン・エンジンの需要を上げるために何ができるのか。その視点から、人と環境に貢献する技術革新を行っていきたいですね」
統合シナジーのメリットは技術面だけに留まりません。ガルピッタンと仕事を共にするようになって以来、杉浦氏は日を追うごとにその成果を感じていると言います。例えば、時間を大切に使う習慣や多様性を受け入れる土壌、生産性が高い業務の進め方――。ソフト面で学ぶことも多く、経営陣と現場のどちらもが、今回の買収を企業文化の発展と成熟の好機と捉えています。
「例えば、ガルピッタンで働く人たちは時間に厳しく、だらだら会議を長引かせるようなことはありません。その理由について、ある人がこう言っていました。『仕事で使う時間は、自分だけのものではない。自分がけじめをつけないことによって、人の時間までムダにしてはいけない』と。他者へのリスペクトが行動の根底にあることを知り、深い感銘を覚えたものです。プラスの影響を受けることは多く、買収するという決断は正しかったと確信しています」
杉浦社長はそんな言葉で未来への展望を語り、最後に、今回の買収に際してISAから受けたサポートについて、こう述べました。
「ISAの方からはスウェーデンの文化や事業環境から、日本からの派遣者の暮らしに役立つ最新情報まで丁寧にご提供いただき、非常に助かりました。また投資企業の立場を慮ったフォローアップも厚く、地元企業や社会との良好な関係を構築していくのに大きな支えとなりました。心から感謝しています」


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