ご主人のスウェーデン帰国に伴ないスウェーデンに移住することになった石井バルクマン麻子さんは、数ヵ月のスウェーデン語のコースの後、すぐに、デイセンターと呼ばれる障害をもった人が昼間通う施設で介護士として仕事を始めます。日本での特殊教育教諭の資格が残念ながら認められなかったための選択でしたが、石井さんが施す教育ケアにより生徒の障害度がみるみる軽減するのを目の当たりにした所長が一年後には石井さんをストックホルム県全域のデイセンター職員が集まる研究会に引っ張り出し、講演するお膳立てをしました。
石井さんが注目を浴びることになったのは立川教育学という、日本生まれの知覚・感覚の発達を促す教育法で、石井さんにはこの研究会の後、全国から講演依頼が舞い込むことになりました。
その後ストックホルム県ナッカ市のトレーニングスクールで4年間学級担任を担当し、スウェーデンでも認められるよう、ストックホルム教育大学で特殊教育教育家の資格を取りなおし、ストックホルムで一番歴史の古いモッカシーネントレーニングスクールで現職に就かれました。現在では週の半分は特殊教育の教育者たちへの指導のためスウェーデン全国を駆け回り、また日本の大学や教育機関でもスウェーデンでの体験を周知させる講演をなさっています。
−現在のお仕事内容を聞かせていただけますか?
「週の半分はここ、モッカシーネンで教師として生徒たちに知覚・感覚を発展させる授業と特殊教育の先生方の継続教育を担当していて、あとの半分はストックホルム以外の特殊教育の教育者への指導で各地へ出かけています」。
−スウェーデン人の教諭たちを指導する立場でいらっしゃるわけですが、難しくないですか?

立川教育法の講議 |
「スウェーデンではその人の経験や能力がとてもストレートに扱われます。私の専門分野である立川教育学ではたとえ私の実際の上司である教頭であっても"一生徒"になります。ですから"生徒たち"が皆私より年上である場合もありますが、全員が私を指導者として尊敬してくれ、真剣に講義を聞いてくれます。 |
仕事を始めたばかりの頃に、現教頭に『若いからって講師が遠慮したりしたらよくないわよ。これは(立川法を教えることは)あなたにしかできないのだから』とアドバイスされ、感激したと同時にその方を立派だと思いました。スウェーデンの平等に関する観念がここにも現れているような気がしますね」。 |
−同僚の方がたは?
「スウェーデンでは皆自分の意見をはっきり言います。会議で激しい口論になったり、仕事上で喧嘩のようなことになったりしても仕事を離れるとその後すぐに、『じゃ、お茶にしようか?』と切り替えが早く、からっとしていて後を引きません。でも基本的なメンタリティーは日本人と似ているところもあり、なにより同じ障害児教育に携わる者として子供たちを大切に思う気持ちは日本人もスウェーデン人もまったく同じです。よく言うのですが、言葉と髪の色が違うだけだって」。
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設備の整ったスウェーデンの特殊学校。洗面台も電動で楽に上下できます。 |
弱視の児童でも見やすい黄色と黒のボールを教材に |
−とても明るくて素敵な学校ですが、日本の養護学校と比較してどう思われますか?
「さっきも言いましたように教員の熱意と専門性にそれほど差はありません。でも物理的なもの、環境に違いは感じます。たとえば、この学校は生徒20人というこぢんまりとした数が定員ですが、それだけの空間的余裕と配慮は日本にはあまりないことです。教室にはリフトが備え付けられ、介助する教職員のからだの負担を軽減します。また、身体に障害を持つ人にはタクシーやリフト付きミニバスによる送迎を受ける権利が法律で守られているので生徒たちは自由に移動できます。さらにテクニカルエイドと呼ばれる車椅子や歩行補助器、コミュニケーション機器などすべての製品のガイドラインが政府機関から出されているので、偏見のない指針を参考にユーザーが安心して購入できます」。
お仕事場にお伺いしたときもちょうど日本から研修・見学に訪れていたお客様がありました。
教育者としての情熱を社会保障先進国とされるスウェーデンと祖国日本の両方に注ぎ、ご活躍されている石井さん。生き生きとしてとても眩しい女性です。

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