約1300年前、イギリスからドイツに渡ってキリスト教布教に努めたワルプルガという尼僧がいました。没後、彼女を聖人と定めて5月1日を記念日としましたが、その時期、ワルプルガに挑戦するように魔女たちが宴を催すという伝説があり、記念日前日の4月30日に大きな篝火をたいて魔女たちを追い払う儀式が生まれました。これが、「ワルプルギスの夜」の始まりだと言われています。スウェーデンでは現在は宗教的な意味合いは薄れて、人々は長い長い冬の終わりを告げる行事として心待ちにしています。ちなみに、この行事はドイツ、フィンランドなどでも行われており、スウェーデンでは“ヴァルボリの夜祭り”という呼び方が一般的です。
「ワルプルギスの夜」には欠かせないものが2つあります。ひとつ目は焚き火です。この日にそなえて数ヶ月前から枯れ枝を集めたり、地方新聞に焚き火の開催場所などが告知されたりするほどの力の入れようです。焚き火は、グループ単位から自治体が主催する大規模なものまでサイズも色々あり、場所も見晴らしのよい丘だったり、川面に浮かべたりすることもあります。そして、日暮れにかかる頃、頃合いを見計らって火が放たれます。スウェーデンの人に言わせると、赤々と燃え上がる火に春の到来を実感し、その喜びを大勢で共有するところにこのお祭りの醍醐味があるのだとか。
スウェーデン、ウプサラ城外で歌を歌い、ヴァルプルギスの夜を祝う群衆。多くの人々が典型的なスウェーデンの白い学生帽をかぶっている。
出典:Nordisk familjebok vol. 30 (1926年) |
そして、ふたつ目に大切なのが春の歌です。歌を歌う習慣は19世紀に始まったもので、スウェーデンにおける音楽の担い手が男性であるように、ここでも合唱団などは主に男性で編成されます。焚き火を囲みながら、あるいは野外のステージで合唱団が春の歌を高らかに歌いあげ、その場をさらに盛り上げます。普段はどこにでもいるおじさんが、この夜ばかりは主役となって、美声を張り上げる姿が見られるかもしれません。
ウプサラやルンドなど歴史ある大学を抱える街では、さらに盛大な祝典が催されます。学生たちがスウェーデン特有の白い学生帽を被り、昼から夜通し飲んで、歌ってお祭り騒ぎを繰り広げ、その様子はテレビでも放映されるほどです。
「ワルプルギスの夜」が終わると、スウェーデンは春から夏に向けて最も美しい季節に移行します。
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