-研究内容について教えてください。
スウェーデンのイェーテボリ大学で樹立された「ヒトES細胞」を用いて、パーキンソン病モデルサルにおける移植効果および安全性評価を、田辺製薬と自治医科大学の共同で行うというものです。ヒトES細胞はスウェーデンのCTS社(Cell
Therapeutics Scandinavia AB)を通して提供を受けます。2003年9月に本研究に関する使用計画を文部科学省に申請しており、現在、審査結果を待っているところです。
-「ヒトES細胞」とは何ですか?
受精卵は胎児へと成長していく過程で2、4、8細胞期胚…と卵割を繰り返し、受精後約5日目には胚盤胞と呼ばれる状態になります。この胚盤胞から内部の細胞塊を取り出し、培養してできるのが「ヒトES細胞(胚性幹細胞)」です。神経や心筋、皮膚、血液など体を構成するあらゆる組織に分化し得る多様性と、ほぼ無限に自らのコピーを作りだす自己複製能力を持つことから、世界の再生医療の分野で注目を集めています。
-このヒトES細胞をパーキンソン病の治療に役立てようと?
パーキンソン病はドーパミンの分泌が不足することによって、運動障害などが引き起こされる病気です。ヒトES細胞を「ドーパミンを正常に分泌する細胞」に分化させて脳に移植すれば、機能が回復すると考えられています。田辺製薬と自治医科大学は、同じ霊長類であるカニクイザルのES細胞を用いた研究ですでに実績を上げており、いよいよこの成果をヒトES細胞に応用させようということで、研究を開始しました。
-なぜ、ヒトES細胞をスウェーデンから?
2001年9月に文部科学省が「ヒトES細胞の樹立及び使用に関する指針」を公表し、国内でもヒトES細胞の樹立と、研究への利用(ただし、不妊治療の際にできた余剰胚で、夫婦の同意のもと無償で提供されたものに限る)が認められました。といっても、すぐに国内樹立株ができるわけではないので、輸入株の使用を考えたのですが、2001年当時、NIH(米国立衛生研究所)が発表したヒトES細胞樹立機関は世界で10機関しかなく、うち2つがスウェーデンのカロリンスカ研究所とイェーテボリ大学でした。米国やオーストラリアなどの機関も含め、比較検討した結果、保有株数や企業への分譲体制など総合的に優れていたのが、イェーテボリ大学。そこで在日スウェーデン大使館投資部(ISA東京)にコーディネートをお願いし、接触を開始しました。
-スウェーデンと組む利点は?
スウェーデンの臨床研究の先進性は有名ですが、ヒトES細胞の研究も非常に盛んで、すでに法的環境も整っています。余剰胚とはいえヒトの受精卵を使うことから、倫理的な観点で樹立を禁止している国もあります。この点に関しても、スウェーデンでは早くから議論が活発に行われ、国民レベルで理解されています。
-初めてスウェーデン人と仕事をした印象は?
非常に仕事熱心。皆さんとても忙しいようで、来日された際もホテルの部屋にこもって仕事をされています。京都をご案内したときも、「パソコンをネット接続できるところはあるか」と聞かれ、実際観光途中、公衆電話にパソコンをつなげて仕事をされていました(笑)。とにかく皆さん、とても穏やかで誠実、ユーモアもある。日本人の波長に合うのではないでしょうか。
-今後の展開について教えてください。
私たちの目標は、今後3年間でヒトES細胞の可能性を見極めること。良い結果が出れば、将来はパーキンソン病だけでなく、循環器系など他の疾患への応用にも挑戦していきたいですね(もちろん、研究を会社が認めてくれればの話ですが)。ヒトES細胞には世界中の研究者が注目しており、自然とターゲットも似通ってきます。有効なデータをいかに早く獲得するか、今後数年が勝負です。
※本件に関するISA東京の支援について
ISA東京は、スウェーデンへの進出をお考えの日本企業に、マッチメイキングの機会を提供するなどのお手伝いをしています。今回の田辺製薬の案件は、ライフサイエンスグループが支援に当たりました。ISA東京は、日本でサルのES細胞の研究で最前線に立っていた田辺製薬に、世界に先駆けてES細胞樹立技術に成功した国のひとつであるスウェーデンの存在を紹介しました。カロリンスカ研究所とイェーテボリ大学のES細胞の資料を持参して東京の田辺製薬本社を訪問し、プレゼンテーションを行ったのが2002年6月です。その後、ISA東京はストックホルムとイェーテボリを訪れた田辺製薬大阪本社の研究者に同行し、スウェーデンでの研究開発ビジネスに関する相談に乗り、資料の提供などを行いました。この支援活動が一助となり、田辺製薬とイェーテボリ大学との共同研究契約成立の運びとなりました。

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