作家の名前は、スティーグ・ラーソン。2004年に50歳の若さでこの世を去りました。死後4年が経った2008年、彼は『カイト・ランナー』を書いたアフガン系アメリカ人小説家、カーレド・ホセイニに次いで、世界第2位のベストセラー作家となりました。
ラーソンが心臓発作のため亡くなったのは、ミレニアム3部作の第1作、『ドラゴン・タトゥーの女』が出版される、わずか数カ月前のことでした。
スウェーデン北部の小さな村で育ったラーソンは、生前、ジャーナリストや編集者として働いていました。1995年には反人種差別主義の雑誌『エキスポ』を創刊。これにより、パートナーのエヴァ・ガブリエルソンと共に、スウェーデンのナチ運動家やその他の極右過激派グループにターゲットとされるようになりました。
ラーソンは、決して名声を追い求めてはいませんでした。むしろ脚光を浴びることを避け、趣味ではなく、ライフワークとして犯罪小説の執筆に取り組んでいました。
ラーソンがこつこつと執筆を続けていたのは、ミレニアムシリーズ。現在は、3部作として3冊が出版されています。ジャーナリストのミカエル・ブルムクヴィストとその友人の若きコンピュータハッカー、リスベット・サランデルが活躍する同シリーズは、出版されたすべての国で驚異的な売り上げを記録します。これまでの発行部数は、41カ国の合計でなんと2000万部。また原作の3冊はすべて映画化されており、その1作目は、2009年に最も収益を上げた映画の1つとなっています。
ラーソンが犯罪小説家として受けたおそらく唯一のインタビューの中で、彼は非常に興味深いことを述べています。それは、「サランデルのキャラクターは、スウェーデン文学におけるもう1人のアイコン、『長靴下のピッピ』から作り出した」と話していることです。
ラーソンは、大人になったピッピを創造しようと考えました。25歳のピッピはどんな外見で、どんなことをしているだろう――。こうしてラーソンは、社会に適応できず、情緒面に問題があり、しかし極めて知的で高い映像記憶能力を持つ、サランデルという女性を生み出したのです。
ミレニアム3部作がフランス語版から(スウェーデン語のオリジナル版からでないのが非常に残念ですが)日本語に翻訳される際、出版社はこれを6冊に分けて世に出すことに決めました。3部作はいずれも、400〜500ページある長編だったからです。さらに、登場する人物や場所の多くが日本の読者には極めてなじみの薄いものであるため、それぞれに注釈を付け加える必要もありました。
では、スウェーデンと犯罪小説にはどんな関係があるのでしょう。国民1人あたりの数で見ると、スウェーデンは成功した犯罪小説家の数が飛び抜けて多い国です。少し考えるだけでも、スティーグ・ラーソン、ホーカン・ネッセル、ヘニング・マンケルなどの名前が挙げられます。
実は、彼らにはある共通点があります。それは、刑事マルティン・ベックシリーズの愛読者だった、もしくは現在もそうであるということ。刑事マルティン・ベックシリーズは、ジャーナリストから小説家へ転向したペール・ヴァールー、マイ・シューヴァル夫妻によって、1960年代後半に書かれたものです。大変な人気を博した10冊からなるこのシリーズは、犯罪小説が、社会に批判の光を当てる物語として最適な様式になりうることを証明した、先駆者的な小説でした。
シューヴァルとヴァールーは時代の申し子であり、明らかに左翼的です。しかし彼らの小説は、デマゴーグやメロドラマや明白なプロパガンダという地雷を踏まないよう、注意深く書き進められています。現在も版を重ねているという事実が、それに成功していることを物語っています。
ラーソンの小説はシューヴァルとヴァールーのものより分量が多く、2人のような文体の巧みさには少し欠けているかもしれません。それでも、十分なスピード感とキャラクターの牽引力で、一度読み始めたらなかなか本を置くことができません。
いくつかの情報によると、ラーソンは生前10冊の本を書こうとしており、未完の第4作目がどこかのコンピュータに眠っているといいます。
ラーソンの主な遺産相続人である親族(父と弟)と、内縁の妻であるガブリエルソンの2者は、4作目をどのように進めるか、これまでに出版された著作と映画が生んだ莫大な利益をどのように分配するかで係争中です。スウェーデンメディアの面前で繰り広げられているこのドラマは、ミレニアムシリーズに負けないほどスリリングな展開を見せています。
ミレニアム3部作:
『ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女』(2008)(2005、スウェーデン)
『ミレニアム2 火と戯れる女』(2009)(2006、スウェーデン)
『ミレニアム3 眠れる女と狂卓の騎士』(2009)(2007、スウェーデン)
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