ISA東京 ライフサイエンスプロジェクト顧問 田村恵美子、 同プロジェクトコーディネーター 福田泰子
スウェーデンと日本は共に技術立国です。このため、ライフサイエンス分野のスウェーデンへの進出では、お互いが強みとする技術を補完しあう、戦略的提携が多くなっています。戦略的提携の成功例として、住友製薬(現 大日本住友製薬)とカロリンスカ研究所が共同で設立したアルツハイマー研究センター、KASPACが挙げられます。同社が数ある候補地の中からスウェーデンを選んだ理由は、研究体制とインフラが構造的に整っていたこと。特にブレインバンクが完備され、ヒトの試料やデータの入手システムが整備されていることを高く評価した結果です。
田辺製薬とイェーテボリ大学およびセラーティス社は、胎生幹細胞による脳細胞の再生、移植といった再生医療の研究分野で提携。ヒトES細胞から分化させた神経細胞を用いるパーキンソン病の細胞移植治療を最終目的とした共同研究を進めています。また、スウェーデンの臨床試験も日本の製薬会社から注目を集めています。スウェーデンの臨床試験は非常に審査が厳しいうえ、国民のID(個人認識番号)に基づいた保健医療関連のデータベースが整っているため、非常に信頼性が高いのです。このようなスウェーデンの臨床試験の優位性を、TFS社(Trial Form Support)などのCRO(臨床試験受託機関)が積極的に日本でプロモーションし、すでに数社がスウェーデンで臨床試験を実施しています。
医薬品のターゲット市場をEU内の数国に限定している場合、信頼性の高いスウェーデンの臨床試験で承認を得ておけば他のEU諸国での承認がスムーズに進むため、承認申請にまつわる無駄なコストがかからず効率的といったメリットもあります。また、Medical Products Agency(医薬品庁)を通じて、専門分野の大学教授が早期の段階より臨床試験のプロトコルを科学的見地からコンサルテーションしてくれるサービスも、臨床試験の質を高めるうえで重要なポイントとなっています。
日瑞循環器代謝学シンポジウム |
スウェーデンと日本の共通の課題である、高齢化に伴う疾病の研究も有望分野です。中でも代謝性疾患治療では、日本の国立循環器病センターとスウェーデンのカロリンスカ研究所およびイェーテボリ大学が学術的交流を行っており、今年3月に共同で『日瑞循環器代謝学シンポジウム』を東京で開催。カール16世グスタフ国王陛下にもご臨席を賜り、成功裏に終了しました。これを機に、両国の技術交流がますます進むことが期待されています。また、糖尿病ではルンド大学が先進的なプログラムを持っており、こうしたプログラムを日本の製薬企業に紹介していこうと計画しています。
上述した以外にも、医療機器、ラボラトリーツールの分野でもスウェーデンの技術は進んでおり、最近ではスウェーデンの機能性食品や動物医薬へ関心を寄せる日本企業も増えています。
さらに、スウェーデンの優れたライフサイエンスを支える要因として、医療分野における社会的インフラが整っていることも忘れてはなりません。スウェーデンではインフォームドコンセントの方法が進んでいるため、患者の医師や病院に対する信頼性がとても高く、臨床試験への参加にも協力的です。このことが、治験途中でのドロップアウト率の低さや効率的かつ信頼性の高いデータ収集に貢献しています。また、先端医療に対する国民の理解(PA)が高く、他国において倫理的に難しいとされるいくつかの研究がスウェーデンでは認められているため、このような分野に関心のある海外の優秀な研究者や企業を惹きつけています。
ISA東京では、スウェーデンのライフサイエンス分野における優位性を日本企業の皆さまにご紹介し、両国の技術発展に貢献する戦略的提携や企業進出が1件でも多く実を結ぶようにお手伝いしています。
ISA本部 ライフサイエンスディレクター
イルバ・ウィリアムス
スウェーデンのライフサイエンス分野への企業誘致事例として最大の成功事例は、ファイザー(Pfizer)によるストレングネス(Strängnäs)への投資でしょう。この交渉にはISAも総力を挙げて臨み、結果として他の候補地だったアイルランドではなく、スウェーデンが進出先として選ばれました。日本の製薬企業の皆さまにも、ぜひスウェーデンが持つ技術力、労働力、インフラのコスト効果の高さといった数多くのメリットをご案内したいと思います。
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