高齢者をサポートする施設は、高齢者住宅やナーシングホーム、地方自治体のホームヘルプサービスなどがあります。1980年代はそのようなサービス、施設が必要な高齢者は約40万人でしたが、2005年には24万5000人にまで減少しています。減少の理由は、手厚いケアによって健康的な高齢者が増えたこと、「自立した普通の生活を送れるようにする」というケアの主旨にあります。国、各地方自治体は、賃貸、持ち家にかかわらず自宅で生活できるサポート体制をとっており、食事の配達をはじめ、掃除や買い物の手伝い、緊急警報サービス、交通サービスなどのほか、転倒によるけがを防ぐためにカーテンをつったり、電球を替えたりするサービスも行っています。そんな体制の中でもとりわけて特徴的なのが住居に関するサポートです。
元気でアクティブなのが、スウェーデンの高齢者たちの特徴
©Hans Bjurling |
地方自治体が高齢者用住宅や居住エリアを計画する場合、民間や行政のサービスへのアクセス利便性など、居住者のニーズを優先的に考えることが要求されます。身体に不自由が生じている場合は自宅の改装を行い、障害がある場合は自治体が交付金で住宅改装費用を全負担して自宅に住み続けられる環境を整えます。高齢者の間で人気があるのが、55歳以上の市民を対象とした「シニアハウス」という一般住宅です。新築や中古など形態は様々ですが、良好なアクセスが基準で、不動産所有者なら種類を問わずシニアハウスを提供できるので、一般市場での購入も可能です。シニアハウスの入居者はレベルに合わせてホームヘルプ、自宅医療を受けることができます。医療面でのバックアップだけではなく、入居者が集える共同キッチン、スタッフの駐在など、安心して豊かな暮しが楽しめるように配慮されています。
自力で生活が送れなくなった場合や、障害をもつ高齢者でも、レベルにより24時間態勢のサポートを受けることができるので、そのほとんどが自宅で過ごすことができます。また、通常の公共交通機関が利用できない高齢者には、タクシーや特別認可の乗り物による交通サービスが提供されます。自宅でのケアが困難な場合は、スタッフが常勤する特別住宅なども用意されています。医療の面では、自宅や外来による診察が増えており、病院での待ち時間を短縮する保証制度なども整えられています。さらに各人に合わせて身体活動を指導する予防ヘルスケアなどの効果もあって、入院日数も短くなっています。しかし、自宅や特別住宅、シニアハウスなどでケアが充実する一方で、医療スタッフの育成・訓練を請け負う自治体の負担が大きくなっているという側面もあります。
高齢者ケア費用は、2005年は総計803億スウェーデンクローナ(約1兆3300億円)で、1980年と比べると60%アップしています。費用の4分の3は主に地方税などの税収、その他は政府からの交付金で賄われており、ケアを受ける高齢者の負担は全費用の3%強にとどまっています。今後25年間は80歳以上の高齢者、年金受給者がさらに増加し、税金を納める就業者が減少することから、高齢者ケアにかかる費用の確保・対策が、政府にとって大きな課題となっています。ケア費用に対する問題がある反面、このサポート体制によって旅行やスポーツを楽しんだり、ボランティアなどの社会活動に参加したりする活発な高齢者が確実に増えています。また、年金受給者の多くは生活にゆとりがあるために、製品やサービスに対して高いクオリティーを求める傾向があり、この要求が新たな市場を創出する可能性があります。つまり、元気に過ごす高齢者は、スウェーデン経済を活性化させる重要な担い手でもあるのです。
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